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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 平安期の拾遺和歌集に、こんな歌がある。<怒り猪(い)の 石をくくみて 噛(か)み来(こ)しは 象(きさ)の牙(き)にこそ 劣らざりけれ>。怒って向かってくるイノシシの恐怖は、象の牙にも匹敵する。歌人も見たことのないはずの象を持ち出して歌っている

▼田畑を荒らし、時に人にも牙を向ける。福井栄一著『イノシシは転ばない』などに学んだが、野生イノシシの怖さは、さらに古い文にも登場する。一方、同じ祖先を持つ豚とのつきあいも古い。秀吉が二百匹を漂着したスペインの船に贈ったとする記述もあるそうだ

▼イノシシと豚。日本人と深く関係してきた動物は、新たな厄介ごとの渦中にある。岐阜県でまたしても豚(とん)コレラが確認された。今回は県畜産研究所で飼われていた豚だ。九月に養豚場で確認されて以来、三例目となった

▼この間、岐阜県内で、野生イノシシ六十六頭の感染も明らかになっている。野山を移動して、感染を拡大させた可能性がある。その牙以上の怖さだろう

▼豚コレラは豚やイノシシ特有の家畜伝染病だ。人にうつらず、肉を食べても影響はない。だが、専門の施設で感染を防げなかった事実は、不安を投げかけよう

▼万葉集には、若者の恋路を邪魔する母親について<鹿猪田守(ししだも)るごと母し守(も)らすも>とする一節がある。田を荒らす獣を見張るように母が目を光らしていると嘆く。同じように目を光らす時だろう。

 

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