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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 ソ連の作曲家ショスタコービッチは、いくつかの作品で、少し不思議な響きがする四音をくり返し使っている。自分のイニシャルから四文字を取って、それを音名に、当てはめた。音で表した「私」である

▼スターリンによる圧政の時代を生きた。意に沿わない表現をすれば粛清もあった時代だ。作曲家は独裁者の死後発表した交響曲などに、この音型を使った。暗号のように仕込んだ真意ははっきりとは語られていないようだが、いま作品を聞けば、全体主義の下で抑圧されてきた「私」の存在を懸命に、表現しているように思える

▼こちらはひそかに仕掛けがほどこされていた絵画に、世界が驚かされたという例だろう。正体不明の路上芸術家バンクシーの作品である

▼英国で競売にかけられ、約一億五千五百万円という高額で、落札された直後、額縁に仕掛けられていたシュレッダーで、自動的に細断された。犯行声明のような動画によれば、作者本人が仕組んだのだという

▼反資本主義などを主張している人物のようだ。細断に込めた真意は不明だが、作品が恐ろしい額で取引される現状を際立たせるのが狙いなのだろうか

▼報道によると、作品の価値は細断で逆に倍増しそうだという。傷つけられて値段がつり上がる。皮肉な事態かもしれないが、芸術の真価を考えさせられもする。これも作者の狙いどおりかもしれない。

 

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