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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 米映画「サイコ」(一九六〇年)のシャワー室の場面といえば、バイオリンによる「キッ、キッ、キッ、キッ」の音楽を思い出し震える

▼作曲はバーナード・ハーマン。メロディーなし、断続的なリズム、高音、不協和音が恐怖を引き出すらしい

▼松もとれぬうちから物騒な話題か。書きたいのは百五十年前の「ヒット曲」のこと。<みやさんみやさん 御馬の前で チラチラするのはなんヂヤイナ トコトン、ヤレ、トンヤレナ>。明治維新のテーマ曲のような「宮さん(トコトンヤレ節)」である

▼一八六八(慶応四)年一月七日、徳川慶喜追討令が下ると、東征軍は錦の御旗を掲げ、トコトンヤレのお囃子(はやし)とともに江戸へ向かう。恐怖の音楽の法則とはかけはなれ、今の人が聞けば、軽快な印象さえわくが、徳川に味方する者には御旗とあいまって、おっかない曲に聞こえたのだろう

▼作詞の尊攘堂主人とはその後、内務大臣となる長州藩の品川弥二郎とされるが、よく分からぬ。実は外国音楽ではないかという説もあるそうだ

▼恐怖を感じるとしたら、その歌詞か。<あれは朝敵、征伐せよとのにしきの御旗ヂヤしらないか>。それに徹底的にやるぞの<トコトンヤレ>。音楽による心理的圧力、民間への流布。今でも、通用する効果的なやり方である。明治百五十年。明治はさほど遠くなりにけりではないのかもしれぬ。

 

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