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中日春秋(朝刊コラム)

中日春秋

 レイナー・ワイス博士(85)は小さなころから、美しい音に心を奪われていた。だから、音楽を雑音なしに楽しめる装置をつくるために音響工学を学ぼうと大学に入った

▼だが、彼はピアニストと激しい恋に落ちた。のぼせあがって大学も退学し、彼女の後を追ったが、あっけなくふられた。それで大学に入り直し、物理学を志した。それは単に「物理学科はほかの学科より縛りがゆるかった」からだったという(レヴィン著『重力波は歌う』早川書房)

▼しかし彼は物理の世界で、生涯をかけて一つの「音」を追うことになった。アインシュタインがその存在を一九一六年に予想しながら、一世紀近く観測されることがなかった「重力波」という「宇宙の音」だ

▼その音は巨大だ。太陽より数十倍も大きい星二つがブラックホールとなり、ぶつかりあって生まれる。だが、地球に届く波の大きさといえば、「地球一千億周分の距離を髪の毛一本の太さにも満たぬ幅だけ伸縮させる」ほど

▼そんな小さな小さな音を聞くために、ワイス博士らは、遠く離れた地で暴れる風が引き起こす地揺れに影響されてしまうほどの繊細さを持つ、恐ろしく敏感な耳をつくりだした

▼そうしてワイス博士らはついに重力波をとらえ、今年のノーベル物理学賞が贈られることとなった。宇宙の謎を秘めた「美しい音」を、私たちに聞かせてくれたのだ。

 

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