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社説

パレスチナを忘れるな イスラエル建国70年

 イスラエルが十四日、建国七十年を迎える。同国びいきを強める米国はエルサレムを首都と認め大使館を移す。パレスチナの悲惨を忘れていいのか。

 パレスチナ自治区ガザでは三月末以来、毎週金曜、デモが続く。イスラエルによる占領反対と難民帰還を訴えている。イスラエル軍は銃撃し、パレスチナ人犠牲者は四十人を超えた。それでもデモは十五日まで続ける。

 七十年前、イスラエルが独立宣言した日の翌日をパレスチナ人は「ナクバ(大惨事)の日」と呼び、心に刻む。イスラエル建国で多くのパレスチナ人が難民となってしまった日だ。

建国時から火種

 犠牲者は増え続けるのに、事件が大きく報じられることはない。冷淡なままでいいのだろうか。

 アラブ国家建国を約束する一方で、ユダヤ人にパレスチナへの建国を認めた英国の二枚舌外交がきっかけだった。欧州で迫害され移住したユダヤ人らは一九四八年五月十四日、イスラエル建国を宣言したが、当初から矛盾と火種を抱えていた。

 アラブ諸国は四回にわたる中東戦争でイスラエルと戦ったが、逆に占領地を増やしたイスラエルの優勢は進んだ。

 武器を持つイスラエル軍に、パレスチナ人は石を投げて抵抗したが、暴力の応酬と呼ぶには、圧倒的な力の差があった。

 平和共存のチャンスはあった。

 イスラエル、パレスチナ双方が一九九三年、テーブルに着き、ヨルダン川西岸とガザに五年間の暫定自治を認めることで合意した。オスロ合意である。

 しかし、それはイスラエル側の挑発などにより、両者の騒乱へと発展、和平プロセスは崩壊状態となっている。

広がる絶望感

 イスラエルではネタニヤフ首相らの右派政権が続き、パレスチナへの強硬姿勢は強まるばかりだ。

 ヨルダン川西岸地区では、国連決議を無視する形でユダヤ人による入植が進み、すでに約四十万人のユダヤ人が住む。パレスチナ人住民は分断され、自由な往来もままならない。

 イスラム組織ハマスが実効支配するガザはイスラエルとエジプトによって国境が封鎖され、水道水の汚染や食料不足などが深刻化、若者の失業率は60%に上る。

 パレスチナには絶望感が広がる。ガザでのアンケートでは約八割が自治政府への不信を訴え、45%が「チャンスがあれば外国に移住したい」と答えた。

 窮状に追い打ちをかけるトランプ米大統領の決定だった。

 エルサレムをイスラエルの首都と認定し、建国記念日の十四日にもテルアビブにある大使館を移転する。トランプ氏の支持基盤である、米国内のキリスト教福音派への受けを狙ったものだが、国家独立後、東エルサレムを将来の首都にしたいというパレスチナの希望を踏みにじったものだ。米国による公平な仲介は不可能になった。

 シリア問題や過激派組織「イスラム国」(IS)掃討が優先課題となり、中東情勢も大きく変わっている。イランとの対立が激化するサウジアラビアはイスラエルに接近。「アラブの大義」であったはずのパレスチナ問題の影は薄くなるばかりだ。

 パレスチナ問題の遠因を作り責任を負うはずの欧州諸国も及び腰だ。ホロコーストを起こしたドイツはイスラエル批判を控える。独誌シュピーゲルのコラムは、イスラエル軍によるガザ攻撃を「武器密輸のためのトンネルを破壊した」と正当化した独メディアの報道を引き合いに「われわれはイスラエル化している」と指摘した。

 パレスチナを今月訪問した安倍晋三首相は、一千万ドル(約十一億円)の食料支援を表明し、エルサレムへの大使館移転は考えていないと説明した。この問題ではトランプ氏と一線を画す姿勢は評価したいが、解決策としての「二国家共存」を繰り返すにとどまった。

 現状を見れば、オスロ合意の再生が困難なのは確かだが、パレスチナの悲惨を放置したままでは中東の安定もあり得ない。国際社会の関心の高まりと、諦めない取り組みを求めたい。

 パレスチナの人道危機を和らげるため、さらにできることはないか考えたい。

ユダヤ人社会も批判

 イスラエル出身のアカデミー賞女優、ナタリー・ポートマンさんは「最近の出来事に心を痛めている」として、ユダヤ人社会に貢献した人物に贈るジェネシス賞授賞式出席を辞退した。

 米国のユダヤ人社会からも、イスラエルの強硬な振る舞いへの批判が相次いでいる。トランプ氏とは違う米国を含めた、国際社会の良識と連携したい。

 

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