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社説

戦略的外交を展開せよ 米大統領のアジア歴訪

 世界の成長センターに関与を続けるメッセージである。トランプ米大統領のアジア歴訪だ。その姿勢は歓迎する。戦略的な外交を展開してほしい。

 トランプ氏は六日の安倍晋三首相との共同会見で、北朝鮮問題について「日本国民と団結し、北朝鮮の脅威に立ち向かっていく」と強調した。首相も「今後取るべき方策で見解が完全に一致した。日米が百パーセント共にあると力強く確認した」と述べた。

 両首脳は会談で、北朝鮮に最大限の圧力をかけることをあらためて確認した。

北朝鮮に圧力だけでは

 だが、圧力一辺倒で北朝鮮が核・ミサイル開発を断念する可能性は小さい。ティラーソン国務長官が北朝鮮との対話に意欲を示したのに対し、トランプ氏は「時間の無駄だ」と切り捨てたことがあった。そうした挑発的な言動は、北朝鮮との間でいたずらに緊張を高めるだけである。

 首相がトランプ氏に同調するのは「日米同盟の揺るぎのない絆」(首相)を誇示するためだろう。だが、朝鮮半島有事になれば日本も甚大な被害を受ける恐れがある。交渉による平和的解決をあくまで目指すようトランプ氏に説いたのだろうか。

 トランプ氏は北朝鮮の拉致被害者やその家族と面会し、拉致問題で日本に協力する意向を表明した。北朝鮮当局には米国人三人も拘束されている。日米の連携を期待したい。

 首相は会見で「安全保障環境が厳しくなる中で、防衛力を質的にも量的にも拡充していきたい」と述べ、トランプ氏の求めに応じて米国からの防衛装備品購入を増やす意向を示した。

 これには米国が問題視する対日貿易赤字対策の側面もあるのだろうが、やみくもな防衛力増強が地域の不安定化を招くことは留意せねばならない。

インド台頭、中国進出

 オバマ前大統領は二〇〇九年の訪日時の演説で「われわれの利害はアジア太平洋地域の将来に大きくかかわっている」としたうえで「米国は太平洋国家だ」と位置付けた。

 オバマ前政権が鳴り物入りで進めたアジア重視政策は、二〇年までに空・海軍の戦力の六割をこの地域に重点配置する「リバランス(再均衡)」と環太平洋連携協定(TPP)が両輪だった。

 ところが、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討に追われて外交の軸足は中東に回帰し、アジア重視はかすんだ。

 ホワイトハウス高官は今回のトランプ氏のアジア歴訪の目的を「自由で開かれたインド太平洋地域に指導力を発揮する意思を示すためだ」と説明する。

 アジア太平洋地域に関与する方針に変わりはなく、逆にインド洋に地域を広げて外交戦略を組み立てていこうという考えだ。インドの台頭と中国のインド洋への海洋進出をにらんだ動きである。

 中国による南シナ海の軍事拠点化をけん制するため、米国が艦船を派遣する「航行の自由作戦」。トランプ政権は五月からこれまでに四回実施した。早くもオバマ前政権と同じ回数だ。中国の挑戦に受けて立つ構えは見せている。

 一方で、トランプ氏はアジアでの貿易体制確立の主導権を握るための基盤であるTPPから離脱した。そればかりかTPP加盟国のカナダ、メキシコと結んでいる北米自由貿易協定(NAFTA)の破棄もちらつかせている。

 貿易赤字にとらわれるあまりに、米国が築き上げてきた自由貿易体制のインフラを自ら破壊するに等しい。

 ISが事実上崩壊し、トランプ政権がアジア重視政策にエネルギーを傾注しやすくなった。ところが、トランプ氏のイラン敵視姿勢は、これを台無しにしかねない。イランとの間の摩擦をいたずらに高め、地域情勢を緊迫化させるだけだ。

 化学兵器を使ったシリアへのミサイル攻撃のように、トランプ外交は多分に即興的であり、一貫性や大局観を持ち合わせていない。政権内の足並みの乱れも目立つ。

 トランプ氏は予定を変更して、十四日にマニラで開かれる東アジアサミットに急きょ出席することになった。欠席すれば、アジア関与は本気なのかと疑われるところだった。外交への認識の甘さが見てとれる。

自由で開かれた地域に

 日米両首脳は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を進めることで一致した。具体的に何を実行するのか。青写真を示してほしい。

 一帯一路構想をぶち上げた中国、東方シフトに乗り出したロシアと、富を求めてこの地域をめぐる大国のせめぎ合いは激しさを増す。米国が主導権を握るには、戦略性が不可欠である。

 

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