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社説

それでも存在意義あり 英離脱通告のEU 

 欧州連合(EU)に存在意義があるのなら、民意を取り戻すことが急務だ。離脱を通告した英国も衆知を集め、いばらの道を乗り越えたい。

 EUは難題に見舞われている。

 ギリシャ財政危機、難民、テロ、そして昨年六月、まさかの英国離脱決定。他の加盟国でもポピュリズム(大衆迎合主義)政党が反EUを訴え、勢いづく。

肥大化続けた果てに

 英国の離脱通告の四日前、英国を除く二十七加盟国首脳らが、共同市場・経済統合の始まりとなったローマ条約の調印六十周年を機に、EUの将来像を話し合った。

 ローマ条約に参加したのはフランス、西ドイツ、イタリア、ベネルクス三国の西欧六カ国。これまで争いの種となってきた重要資源の石炭と鉄鋼を、平和的に共同管理するのが目的だった。

 組織は肥大化を続け、単一市場を作るだけでなく、世紀をまたいだ二〇〇二年には単一通貨ユーロを流通させるに至った。

 冷戦終結を経て〇四年以降には中東欧諸国が、ロシアの影響力から逃れたい思惑から続々加盟。EUは東方に勢力を拡大してきた。

 平和の版図を広げるのは、いいことのはずだった。

 しかし、共通政策の拡大は各国の裁量権を奪い、移動の自由の原則により移民や難民の流入に歯止めを掛けられなくなり、各国の治安や雇用を脅かすようになった。

解体論説くトッド氏

 欧州統合の欠点を、フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏(65)は厳しく突く。

 本紙のインタビューにトッド氏は「英国人は、自分で物事を決定する能力をなくしてしまったことに我慢がならなかった。EU離脱は十分に予想できた。平等という価値観を共有していた欧州は、若者を損ない不平等を生んでいる。EUの国々は沈みつつある船に乗っているようなもの。欧州は崩壊でしか生まれ変われない」とEU解体論を主張した。

 取材した渡辺泰之記者は「欧州の将来へのあきらめにも似た思いを感じた」という。

 トッド氏の言うとおり、EUは崩壊させればいいのだろうか。

 否、それでもEUに意義はある、と強調したい。

 繰り返し言われるように、二度の世界大戦を起こした欧州は、おおむね平和を保っている。不倶戴天(ふぐたいてん)の敵同士だったドイツとフランスは、友好を深めている。中東欧諸国にも西欧の豊かさが広がった。いずれもEUがあったからこそだ。

 EUによって若者たちの意識が変わったことも大きい。国境審査を免除し合うシェンゲン協定などのおかげで、気軽に欧州諸国を訪れ、留学するようになった。

 交流は相互理解を育み、差別をなくす。平和は将来も続いていくだろう。

 EUの将来像について首脳らは「統合の速度を多様化させる」とうたったローマ宣言を採択した。「ゆるさ」を認めていこう、という意思表示だ。

 難民問題で、寛容はドイツの国是だが、社会主義だった中東欧諸国では外国人への警戒感が強い。国民感情や実情を踏まえた政策のすり合わせが求められる。

 規制や制度を一律的に押し付けてきたとの批判が強い官僚主義の是正も急務だ。各国の多様な民意にもっと耳を傾けるシステムを作るべきだろう。

 EUに離脱を通告し二年間の期限を切られた交渉を始める英国にとっては、これからが正念場だ。

 多岐にわたる交渉項目、EUとの新たな自由貿易協定(FTA)締結、英国からの企業移転、独立の是非を問う再住民投票を計画するスコットランドはじめ国内分裂の恐れなど、ハードルは多い。

 メイ英首相は情報公開に消極的で、異論には耳を貸さず、単一市場からも撤退する「強硬離脱」を強行しようとしている。

柔軟姿勢で交渉を

 政治家やエリートらが強引に進める手法では、民意は離れる。仮に、離脱見直しの声が高まれば、民意を問い直せばいい。

 交渉で早速大きな問題となるのが、EUが英国に求める最大六百億ユーロ(約七兆二千億円)の「手切れ金」だ。

 EU側は英国も承認したEU中期財政計画(二〇一四〜二〇年)予算の分担金などと主張するが、英国は拒否している。EUには離脱ドミノを防ぐため厳しい姿勢で臨みたい事情もあるが、英国と良好な関係を続けていくためにも、柔軟な姿勢を望みたい。

 EUは、隣国と戦争をせず共存していく人類の回答であり、試練でもある。日本を含む世界のどの国にとっても、答えを模索すべき宿題である。

 

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