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編集局デスク

復興への想像力

 <国破れて山河あり 城春にして草木深し>。杜甫の「春望」はこの季節に思い浮かべる詩歌の一つです。戦で都は壊されたが、山や河は昔のまま残っていると、しみじみうたいます。

 それが東日本大震災による原発事故の後は自然も汚され、こんなふうにも思ったものです。「国策破れて山河なし」…。 

 事故の影響で多くの人が故郷を離れましたが、自主避難した人たちへの住宅の無償提供を、福島県はこの三月末で打ち切りました。新しい住まいが決まっていない人も多く、被災者にはまだ寒風が吹き付けるような春でしょう。

 それに追い打ちをかけたのが、今村雅弘復興相の発言です。「帰れない人はどうするのか」という記者会見での質問に「本人の責任でしょう」と自己責任論を唱えました。「裁判でも何でもやればいいじゃない」とも。前には「故郷を捨てるというのは簡単」と言っていました。

 誰が好んで古里を離れ、避難生活を送っているのか。帰りたくても帰れない人たちの自己責任を言うのなら、国策の果ての原発事故という大きな責任は、一体どうなっているのでしょう。

 一人一人にかけがえのない故郷や人生、家庭がある。そんな想像力こそが、復興には大切なのではないかと思います。

 今、公開中の映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」を連想しました。病気を患う英国の大工ダニエルが複雑な支援制度に振り回され、格差に怒りを覚え、こう書きつづるのです。「私はダニエル・ブレイク…人間だ」と。

 彼が求めたものは、人としての尊厳でした。傲(おご)ったような言動が散見される今の閣僚たちによく思い起こしてほしい、当たり前の理念です。

(名古屋本社編集局長・臼田信行)

 

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