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<どうなる八丁味噌> (中)見えない「テロワール」

農水省の地理的表示(GI)保護制度の産品として登録された八丁味噌=農林水産省提供

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 「伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの特性が、品質等の特性に結びついている産品の名称を保護する」。農林水産省のホームページには、地理的表示(GI)制度についてこんな説明がある。

 しかし、岡崎発祥の八丁味噌(みそ)の登録を巡る一連の問題では「気候、風土などの特性」を重んじるはずの制度の矛盾点が浮かんだ。

 県内の味噌業者でつくる「県味噌溜醤油(しょうゆ)工業協同組合」(県組合)の申請に基づく登録簿は、八丁味噌が県に根付いた理由に「高温多湿な気候」を挙げる。自然の暑さの下で大豆を分解させることで、特徴的な色の濃い味噌ができるという考え方からだ。

 他方で登録簿は、機械などによる温度調整も認めている。専務理事の富田茂夫さんは「昔と違い品質管理が進んでおり、天然熟成にこだわる必要はない」と説明するが、愛知と気候が異なる地域でも製法を守れば「八丁味噌」を造れることになる。気候や風土を重視する本来の制度趣旨からかけ離れかねない。

 県組合と対立する形の岡崎市の「八丁味噌協同組合(八丁組合)」が出した申請は、岡崎に八丁味噌が根付いた背景の一つとして、矢作川に隣接する立地で大豆や塩を入手しやすかったことを挙げる。

地域の風土や伝統などに根差した産品の名前を守るGI制度のマーク。仕組みの矛盾も浮かびつつある=農林水産省提供

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 だが、実際には八丁組合の製品は輸入大豆の使用量が半数を超える。申請の記述と矛盾しかねないが、GI制度は原材料について規定を設けておらず、問題はないという。

 GI制度に詳しい愛知学院大の関根佳恵准教授によると、制度の根幹には、フランス語で風土を意味する「テロワール」の概念があるという。土壌や日当たりなどの自然条件が農産物の特性に影響するという考え方で、ワインやチーズなどでよく用いられる。

 GI発祥の欧州では、風土との結び付きの強さの度合いに応じて産品を二段階で認定。原材料の生産から加工まで全ての工程を特定の地域内で行う場合と、他産地の原材料を用いても製法などに地域性や特徴がある場合に分けられている。

 日本のGI制度は後者の方式を模しており、原材料などの規定がないため「地域との結び付きが見えにくい」(関根准教授)のが現状だ。特に加工品は輸入品が原材料のものも多く、農水省知的財産課は「登録品の中には風土とのつながりが薄くなっているものもある」と認める。

 農水省は、GI制度の目的に地域農業の振興を挙げる。関根准教授は「本気で国内農業の振興につなげるつもりなら、原材料の規定を追加で設けるべきだ」と提案する。

 <地理的表示(GI)保護制度> 地域の風土や伝統的製法などに由来した農産品の保護を目的に、国が2015年に開始し、これまでに西尾の抹茶など62品目が登録された。登録では産品ごとに生産地や品質の基準などを定め、地域にちなむ名称を生産者団体などが使用できる。認定された団体に加入していなくても、登録地域内の生産者で品質などの基準を満たせば、追加での登録ができる。

 制度は世界100カ国以上で導入され、日本は欧州連合(EU)とGIの相互保護で合意。八丁味噌の場合、登録に漏れた岡崎の2社は、国内では「八丁味噌」を引き続き名乗れるが、EUでは使えなくなる。

 

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